基礎

MBOの基礎

MBO(マネジメント・バイアウト)とは何か。定義、種類、M&A・TOB・LBO・MEBOなど近い言葉との違い、登場人物の役割を一つずつ整理します。

1. MBOの定義

MBOは Management Buyout(マネジメント・バイアウト) の略です。

定義

会社の経営陣が、自ら買収側に立って、自社または自社の事業を買い取る取引。買収資金は経営陣の自己資金だけでなく、投資ファンド等の出資と金融機関からの借入(かりいれ)を組み合わせることが一般的。

普通の買収(M&A)では、買い手と、買われる会社の経営陣は別の立場にあります。MBOでは買われる会社の経営陣自身が買い手側に回る。これが「Management」の意味であり、MBOのすべての特徴と論点はここから派生します。

「経営陣が買う」の実際の形

経営陣が個人で数百億円を用意することは現実的ではありません。実務では、

  • 経営陣が買収目的会社(SPC)を設立し(または投資ファンドと共同で設立し)、
  • SPCに経営陣とファンドが出資し、SPCが金融機関から借入を行い、
  • SPCが対象会社の株式を取得する

という構造をとります。経営陣の出資割合は案件により大きく異なり、ファンド主導で経営陣は少額の再出資にとどまる場合も、経営陣が過半を出す場合もあります。どちらもMBOと呼ばれます。

2. MBOの種類

類型典型的な場面主な論点
上場会社の非公開化型上場企業の経営陣がファンドと組み、TOBで株式を取得して上場廃止する利益相反、TOB価格の公正性、少数株主保護、LBOファイナンス
子会社・事業のカーブアウト型親会社がノンコア事業を切り出し、その事業の経営陣が買い取る親会社との切り離し(スタンドアロン問題)、移行サービス契約、事業価値評価
事業承継型創業者・オーナーが引退し、後継者となる役員や幹部が株式を引き継ぐ株式の評価、資金調達(金融機関・事業承継ファンド)、個人保証
再生・スポンサー型経営不振企業を、経営陣とスポンサーが再建を前提に取得する債務整理との組み合わせ、金融機関との調整

本サイトは、論点が最も多く制度も整備されている上場会社の非公開化型を中心に解説し、必要に応じて他の類型に触れます。

3. 近い言葉との違い

MBOの周りには似た言葉がたくさんあります。これらは競合する概念ではなく、問いの軸が違うだけです。

用語何の話かひとことで
M&A取引の大分類企業・事業の取得・統合の総称。合併も株式取得も事業譲渡も含む
MBO誰が買うか(買い手の属性)経営陣が買収側に立つ買収
MBI誰が買うかManagement Buy-in。社外の経営者が経営権取得を目的に買収する
MEBO/EBO誰が買うかManagement and Employee Buyout/Employee Buyout。従業員も出資に参加する
LBO資金をどう組むかLeveraged Buyout。借入を活用して買収する手法。MBOの多くはLBOでもある
TOB株式をどう集めるかTakeover Bid(公開買付け)。条件を提示して多数の株主から応募を募る手続
非公開化(Going Private)取引の結果上場廃止し、公開市場での売買を終わらせること
スクイーズアウト株式をどう集めるかTOB後に残った少数株主を金銭交付により整理する会社法上の手続
M&A(大きな箱) │ ├─ 株式取得による買収 │ ├─ 買い手が経営陣 ─────────▶ MBO ┐ │ ├─ 買い手が社外経営者 ─────▶ MBI │ 買い手の属性 │ └─ 従業員も参加 ───────────▶ MEBO ┘ │ │ ├─ 資金に借入を活用 ───────▶ LBO ← 資金の組み方 │ └─ 株式の集め方 ───────────▶ TOB → スクイーズアウト → 非公開化 │ └─ 合併・事業譲渡・会社分割 など
一つの取引が「MBOであり、LBOであり、TOBを使い、非公開化に至る」ことは普通にある。
よくある誤解
  • MBO=TOBではない。MBOは取引の性格、TOBは株式取得の手続。非上場会社のMBOにTOBはない。
  • M&A=合併ではない。株式取得で別会社のまま支配するのもM&A。
  • MBOでは会社自身が自社株を買うのではない。買うのは経営陣側の買収会社(SPC)。会社が自社株を買うのは自己株式取得で、別の取引。

4. 登場人物と役割

主体役割主な関心
対象会社買収される会社。上場会社なら「TOBの対象会社」企業価値の向上、事業の継続
経営陣買収側に立つ。SPCに出資し、非公開化後も経営を続ける経営の自由度、自身の出資リターン
出資者となる投資ファンド(スポンサー)エクイティの主要な出し手。SPCの株主として経営を監督し、数年後の投資回収(エグジット)で利益を得る内部収益率・投資倍率、投資回収(エグジット)の道筋
買収目的会社(SPC)買収を実行するための会社。公開買付者となり、借入人となる—
金融機関(レンダー)買収資金の一部をデット(借入)として提供返済能力、担保、コベナンツ
既存株主対象会社の株主。TOBに応募するか判断する売却価格の妥当性
特別委員会独立社外取締役等で構成。取引の是非と条件を対象会社側で検討・交渉少数株主の利益
財務アドバイザー・算定機関株式価値の算定、フェアネス・オピニオンの提供、交渉支援—
法務アドバイザー手続の適法性・公正性に関する助言—
従業員・取引先直接の当事者ではないが、事業継続と借入負担の影響を受ける雇用、取引の継続

5. MBO最大の論点:利益相反

経営陣は本来、株主から経営を委ねられた立場であり、「この価格や条件は会社と株主にとって妥当か」を判断する側にいます。ところがMBOでは、その経営陣が買い手になります。

買い手(経営陣・スポンサー)の利益

取得価格は低いほど有利。将来の成長見通しを控えめに示す誘因が働きうる。

売り手(一般株主)の利益

売却価格は高いほど有利。しかし経営陣ほど会社の内部情報を持っていない(情報の非対称性)。

この構造的な利益相反があるため、MBOでは価格と手続の公正性をどう担保するかが制度と実務の中心テーマになります。独立した特別委員会の設置、第三者算定機関による株式価値算定、少数株主の過半数条件、十分な情報開示、といった措置が発達してきました。詳しくは法規制と公正性で解説します。

6. 2つの「なぜ」

MBOを考えるときは、次の2つの問いを分けて考えます。

問い①

なぜ非公開化するのか

短期的な株価や四半期業績に縛られず、中長期の投資や構造改革を機動的に進めたい、上場維持コストを削減したい、といった経営・事業の観点。→ 歴史と動向

問い②

なぜ借入で買うのか

借入を使うことで必要な自己資金を減らし、エクイティのリターンを増幅できる、というファイナンスの観点。ただしリスクも増幅する。→ ファイナンス

「非公開化したい理由」と「借入を使う理由」は別のレイヤーの話です。前者が説得的でも後者が過大なら案件は危うく、後者が魅力的でも前者が薄ければ株主を納得させられません。

7. メリットとデメリット

メリットデメリット・リスク
会社・経営陣中長期視点の経営、迅速な意思決定、上場維持コストの削減、経営陣の持分による強いインセンティブ借入返済負担、コベナンツによる制約、資本市場からの資金調達手段の喪失、知名度・信用力への影響
一般株主市場価格にプレミアムを乗せた価格での売却機会価格が本来の価値より低い可能性、非公開化後の成長果実を得られない
スポンサー経営陣との協働、非公開ならではの改革によるリターンレバレッジによる損失の増幅、投資回収の不確実性
金融機関相対的に高い金利収入、担保とコベナンツによる保全業績悪化時の回収リスク、リファイナンスリスク
従業員・取引先経営の安定・長期投資による事業強化借入負担による投資抑制やコスト削減圧力